環境

Environment

環境への取り組み(気候変動対応)

外部環境認識

気候変動が加速していく中、世界各地において自然環境・人々の暮らし・企業活動に様々な影響や被害が現れ始めています。気候変動への取り組みとしてパリ協定が採択され、各国がネットゼロに向けた対応を行っており、日本政府はNDCの目標(2030年度における温室効果ガス(GHG)削減目標)を26%から46%(2013年度比)に引き上げることを表明しています。こうした中、企業による事業を通じた脱炭素社会への貢献が求められています。
我々は企業として、自社の事業を通じて気候変動の緩和と適応を行いながら持続的成長を目指します。また、企業に対して気候関連課題に関する情報開示要請も高まっており、情報開示の重要性を認識し、開示に向けた取り組みを進めています。

方針

気候変動は、当社にとってリスクであると同時に新たな収益機会につながる重要な経営課題であると認識しています。気候変動の取り組みを積極的にまた能動的に行うことは、中長期的な当社の企業価値向上につながるものであると考え、ステークホルダーと適切に協働し、自社のみならず社会全体に利益をもたらすことを目指します。また、こうした取り組みを通して、当社はSDGsやパリ協定で掲げられた目標達成への貢献を目指します。
当社は気候関連の財務情報開示の重要性を認識し、TCFD提言に則した情報開示を行っていきます。

ガバナンス

当社の気候変動に関するガバナンス体制図は、下図のとおりです。

取締役の監督体制

取締役会は、気候関連事項のうち移行計画の進捗及び適応策など重要事項について経営会議より定期的に(原則年2回)報告を受け、自社の戦略・事業計画やリスクマネジメント方針等の見直し・指示を行い、気候関連事項に対処するための指標と目標に対する進捗状況等を監督します。

経営陣の役割

代表取締役社長は、気候関連事項における自社の経営責任を負っています。この責任には、気候関連事項の評価やマネジメントが含まれています。
代表取締役社長が議長を務める経営会議(※1)は、ESG委員会(※2)からその審議結果につき、報告を受ける(原則年4回)ことでモニタリングしています。経営会議はこの報告の中に含まれる気候関連に関する取り組みの進捗状況もふまえて自社の戦略・事業計画やリスクマネジメント方針等を審議・決定しています。

(※1)経営会議
「経営会議規則」に則り、議長である社長が招集し常勤の取締役、常勤監査役並びに社長指示により追加されるその他の構成員によって毎月1度~2度、定期的に開催されます。

ESG委員会

ESG委員会(※2)は、サステナビリティ課題の1つとして気候関連事項を審議します。経営会議の委嘱を受けて定期的に開催され(原則年4回)、E・S・Gの各分科会において、課題の特定、目標と行動計画の設定、進捗のモニタリングを行い、特定したリスクと機会に関する対応策をリスクマネジメント委員会と連携して審議し評価を行い、重要事項について経営会議へ付議・報告します。

(※2)ESG委員会
当社はESGの視点を経営の中核に位置づけており、ESG経営を通じた中長期的な「企業価値の向上」を実現するため、ESG・持続可能性に関する会社の戦略・方針及び活動計画を策定し、その実践を評価・推進する機関としてESG委員会を設置しました。ESG委員会は、社長を委員長、取締役を副委員長とし、社内の各部門長、社外取締役、常勤監査役(計10名)で構成され、社外取締役・常勤監査役は、随時指導・助言等を行います。

戦略

当社は、当社事業に対する気候関連のリスクと機会を特定し、選択したシナリオにおける事業への影響を検討しました。TCFDの枠組みに沿って、移行リスク・物理的リスク及び機会という観点から検討し、下記のとおりそれぞれ特定しました。リスクと機会を特定した後に、「低炭素製品市場の進展」と「脱炭素政策の進展」という2つの軸から複数のシナリオを想定し、当社のレジリエンスを検証しました。

リスクと機会を特定するためのプロセス

社内の評価基準に基づき、気候関連事項に関し想定されるリスクと機会を評価し、重要性のあるものを特定しています。特定にあたっては、財務影響及び設定した時間的範囲を考慮しています。

シナリオ分析…選択したシナリオと時間軸及びシナリオ選択理由

当社は、シナリオを選択するにあたり、パリ協定に沿ったシナリオ、即ち「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑える」という目標に沿ったシナリオであり、2021年10月22日に日本が提出したNDC(2050年カーボンニュートラルと整合的で、野心的な目標として、2030年度において、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す)が達成されることを念頭においたシナリオである、国際エネルギー機関(IEA)が策定したWEO NZE 2050シナリオ(1.5℃シナリオ)を選択しました。

また、上記シナリオと対極にあるシナリオとして「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑える」という目標や日本のNDCが達成されず、平均気温が最も高くなるIPCC RCP8.5(4℃シナリオ)を選択しました。この2つのシナリオにおいて、当社の事業にどのような影響があるか、また対応策をとることで当社にどれほどの財務インパクトが生じるか、等々、多様な観点での分析を試みました。

  1. WEO NZE 2050シナリオ(1.5℃シナリオ)
    • カーボンプライシングが強化され、製造におけるコストアップが生じる
    • 当社ステークホルダーからのGHG排出削減要請が高まる
    • 電化が可能なもの(例:スマートファクトリー等の環境対応電子部品)は電化が進み、自動車のEV化や蓄電池の需要が増大する
    • 低炭素経済への移行を進めるためDXが進展し、それに伴い電子部品や半導体の需要が増加する
    • 低炭素製品の需要が急速に拡大し、低炭素製品に関する技術革新が進む
    • 世界全体で台風・洪水・高潮の頻度や程度は現状と同程度であり、穀物由来の原料への影響も現状と同程度のまま推移する
  2. IPCC RCP8.5(4℃シナリオ)
    • カーボンプライシングが導入されるが、製造におけるコストアップは限定的
    • 当社ステークホルダーからのGHG排出削減要請は現状と同程度
    • 一部において電化は進み、車のEV化や蓄電池の需要は僅かに増加
    • 低炭素経済に向けた産業構造の変化がそれほど進まず、DXの進展も鈍化し、電子部品や半導体の需要も現状と変わらない水準
    • 低炭素製品に関する技術革新は、従来技術の延長としての発展が見込まれるが、それほど進展しない
    • 異常気象が頻発し、農作物不作、貴金属の採掘等へ影響し安定調達が困難になり各種原材料のコストが増加
選択したシナリオ 特定したリスク・機会 ドライバー 時間軸 影響の程度 対応策
種類 概要
1.5℃
シナリオ
WEO NZE 2050
移行リスク
(政策・法規制)
GHG排出規制や炭素税の強化 GHG排出規制
炭素税
長期 ほとんどない 全社LED化、エアコンの買替、EV車への買替 などの環境投資策
移行リスク
(評判)
ステークホルダーからのGHG排出量削減要請 ステークホルダーからのGHG排出量削減要請 長期 やや高い ESG委員会にて、環境に貢献する製品の開発、環境投資策、シナリオ~リスク・機会分析等を推進し、サステナビリティ情報として開示
機会
(製品/サービス・市場)
ニッケルを使用しないプロセスとする製品の開発 ステークホルダーからのGHG排出量削減要請 短期・中期・長期 顧客個別要求仕様に迅速に対応できる設備投資の実施、展示会出展 など
機会
(市場)
電池市場への参画 政府主導の投資促進策 中期・長期 2030年に二次電池分野のビジネスモデルを立ち上げるべく、電池材料・電解液メーカーとの共同開発等を模索中
4℃
シナリオ
IPCC RCP8.5
物理的
リスク
(急性)
台風や洪水による生産拠点の被災
台風や洪水の頻度・程度 長期 ほとんどない 受容できるリスクと捉え、対応策(投資)不要と考える
(慢性)
平均気温の上昇
平均気温 長期(5~35年) 同上
物理的
リスク
(急性)
サイクロンや洪水による当社顧客の工場の被災(国内外) サイクロンや台風の頻度・程度 長期 当社BCPに当該リスク・地政学的リスク等を編入して再計画を構築
機会
(製品/サービス・市場)
穀物由来原料の代替製品の開発 異常気象 中期・長期 中~高 新製品開発と既存製品改良の2アプローチで2030年に主要原材料の20%以上の入替を目指す

選択したシナリオ ・国際エネルギー機関(IEA)が策定したWEO NZE 2050シナリオ
         ・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が策定したRCP8.5シナリオ
時間軸:短期=1年(単年度計画と同期間)、中期=3年(中期経営計画と同一期間)、長期=2030年(日本のNDCにおける中期目標と同期間)

シナリオ分析結果

移行リスクが高まると想定されるWEO NZE 2050シナリオにおいては、GHG排出規制やカーボンプライシングの導入により製造における追加コストが発生することが想定され、また当社顧客を含むステークホルダーから当社のGHG排出量削減要請が高まることが予想されます。
また、当社の顧客においてもエネルギー使用量削減が求められると想定されるため、当社のニッケルフリー製品(ニッケルめっき工程に係る電力使用が不要となる)の販売拡大という機会があると考えます。さらに、蓄電池の需要が増大することが予想されるため、当社がめっきで培ったコア技術を応用し、蓄電池の要素開発を行うことで新たな収益源となる好機でもあると考えます。

物理的リスクが高まるIPCC RCP8.5シナリオにおいては、台風や洪水の頻度や程度が高まることが想定されますが、当社本社の立地(海抜35.5mに位置し、周辺地域に水源なし)においてはこうした物理的リスクは想定されないため、被災による生産能力の停止や低下というリスクは想定していません。一方で、当社の顧客が台風や洪水によって被災するリスクはあり、特に海外に工場を有している顧客でこうしたリスクが顕在化する可能性があり、その結果当社売上が減少するリスクがあります。
また、異常気象により農作物の不作も想定されます。当社のめっき薬品の主要原料が穀物由来であるため、穀物の不作により原料の高騰というリスクが生じ得ますが、当社は穀物由来原料の代替原料の開発を開始しております。またこの開発は当社の原料の高騰リスクを低減することのみならず、環境への影響を低減したいと望む顧客の要望に応えることにもつながり、こうした顧客に対する売上増加になり得ると考えます。

気候変動関連のリスクに対する当社のレジリエンス

当社は、中期経営計画における「サステナビリティ経営に向けた取り組み」において環境変化に敏感に対応し、公正な企業活動を進めることで持続可能な社会の実現に貢献していくことを掲げ、E・S・Gそれぞれに関する目標及び具体的な取り組みを策定しており、この中に気候変動関連の各リスクへの対応策も含まれております。詳細は上表をご参照下さい。

リスク管理

気候関連リスクの特定方法

ESG委員会におけるE分科会が気候関連に関する事項を所管し、社内関係部門と協働して気候関連リスクの状況を把握します。気候関連リスクは、E分科会からESG委員会へ報告されESG委員会にて審議され、気候関連リスクが決定されます。その後、ESG委員会から経営会議へ報告され、経営会議での審議・承認を以て、最終的に当社の気候関連リスクとして特定されます。
また、ESG委員会における審議にあたって以下の項目を考慮しています。

  • 既存及び新規の規制要件(例:炭素価格)
  • 短期・中期・長期における時間軸
  • 移行リスク:政策・法規制リスク、技術リスク、市場リスク、評判リスクなど
  • 物理的リスク:急性リスク、慢性リスク

重要性を決定する方法

当社は、以下の項目を考慮し、気候関連のリスクの重要性を評価・決定しています。

  • 緊急度(発生確率)
  • 財務への影響度

気候関連リスクのマネジメントプロセス

  1. リスクへの対応方法
    特定した気候関連リスクは、リスクマネジメント委員会にて、それぞれ軽減・移転・受入・制御といった対応を検討します。検討結果をリスクマネジメント委員会より経営会議に報告し、最終的には経営会議においてリスクへの対応方法が決定されます。
  2. 優先順位の策定
    リスクマネジメント委員会にて、当社が優先して取り組むべき気候関連リスクの順位付けを決定します。その際、それぞれ潜在的な財務影響と緊急度(発生確率)の2つの観点から評価を行い、優先順位付けを行います。

全社のリスクマネジメントへの統合

リスクマネジメント委員会は定期的(原則年4回)に開催され、各部門から報告のあった当社リスクを評価し、全社リスクの把握と適切な対応を審議し、経営会議に報告しています。
気候変動や人的資本と多様性など当社のサステナビリティ経営に関わる課題は、ESG委員会からリスクマネジメント委員会へ報告され、他のリスクと同様に、リスクマネジメント委員会で評価し、リスクの把握と適切な対応を審議し、経営会議に報告しています。
最終的に経営会議にて全社的なリスクマネジメント方針が決定され、リスク管理所管部にてリスク管理方針に基づき管理されます。

指標と目標

気候関連のリスクと機会の測定とマネジメントに使用する測定基準

当社は、以下の指標を気候関連のリスクと機会の測定とマネジメントにあたって使用しています。

  • GHG排出量(スコープ1・スコープ2)
  • 再生可能エネルギーの割合
  • 規制リスク:炭素価格
  • 機会:低炭素経済への移行を支援する製品またはサービスからの収益の増加率

インターナル・カーボンプライス

当社の事業遂行上のGHG排出量は極めて少量であり、燃焼エネルギー投入の増減と業績の変動との関連性がないビジネスモデルを構築しています。従って、エネルギー価格が今後数倍に上昇したとしても、当社への財務インパクトは極小で、事業計画への影響はほとんど生じません。一方で、インターナル・カーボンプライスを策定し、気候関連のリスクと機会を検討することは、低炭素製品市場への進出という当社の顧客の情勢を考慮すると、有益であると考え、下記のとおりインターナル・カーボンプライスを設定しています。
インターナル・カーボンプライスは、最新のJ-クレジット価格(再エネ発電)と連動して設定され、当社が投資する際の判断基準として用いられています。

CO2 1トンあたり:3,000円(最新のJ-クレジット価格(再エネ発電)に基づく:2022年4月時点)

GHG排出量

当社のGHG排出量は以下のとおりです。

目標と目標に対する指標

当社は、気候関連のリスクを軽減するため、また気候関連の機会を最大化するため以下の目標を設定しました。また、それぞれの指標についても以下のとおり策定しています。

目標1:GHG排出量削減

目標:2030年スコープ1・2に関するカーボンニュートラル達成

指標:GHG排出量

目標2:エネルギー使用量(省エネ等)

目標:2030年度エネルギー使用量20%削減(2022年度比)

指標:エネルギー使用量